まぼろしパンティ・海賊版・「掏りバカ日誌 の巻」/中円寺・著 

初出:2005年3月1日
〜3月6日
『まぼろし掲示板』



 N県にある進学校、クライム学園。
 アウシュビッツ・オペレーション後に乱れていた学園の秩序は、まぼろしパンティの活動再開で安定を取り戻しつつあった。
 それでも学園の持つ構造的な歪みなのか、小規模な事件は減ることがなく、まぼろしパンティに安らぎの時間はなかなか訪れないのであった。


 ある日の休み時間、3年生の教室が並ぶ長い廊下を一人の少女が歩いていた。
授業と授業の間の休み時間で大勢の生徒が廊下を行き来しているが、その少女は一際注目を集めている。
特に男子生徒から熱い視線が集中していた。
理由は彼女のふくよかな肉体にあると考えるのが妥当なところではないだろうか。

 学年が上がるにつれ彼女の身体はふくよかさが増してきていた。
特に体幹部に重点的に脂肪がついてきているようで、手足の細さからは想像の出来ないくらいの肉感であった。
顔の大きさも同じくらいの身長の女子と比べると小さく見え、とてもそれほどグラマラスだとは思えないのだが、
薄着になるとそのダイナマイトぶりが明らかになり男子生徒をむやみやたらと興奮させるのであった。

 彼女のそのグラマーっぷりが認識されたのは体育祭でのことだった。
普段吹奏楽部に所属している彼女は体操着とは縁が遠く、体育の時間もジャージを着用が一般的なのでその身体的特徴はなかなか男子までは伝わってきていなかった。
しかし体育祭で薄手の体操服に身を包み、その豊かな胸を揺らしながら徒競走を必死に走る様が全学年の男子生徒の股間を熱くさせた。
そしてその日から彼女は学園でも指折りの夜のオカズクイーンになったのだった。

 そんな彼女には愛を告げる手紙が頻繁に届くようになるのに時間はかからなかった。
派手な顔立ちではなく、どちらかと言えば清楚で大人しく見られるルックスを持ち、頼み込んでも嫌とは言われなさそうな雰囲気を醸し出していたので、男子としては申し分の無い異性であったと言えるのかもしれない。週に1通はラブレターが下駄箱などに届くようになっていた。

 そんな周囲の過熱振りの所為もあり、彼女自身も自分の身体的特長を意識し始め、その恩恵を享受しようとし始めたのも無理からぬところだろう。
校則が厳しい為、特定の誰かと付き合うなどということは不可能であったし、彼女自身もそこまでは望んでいなかったが、異性からの熱い視線は積極的に浴びたいと願うようになっていた。それまでより姿勢よく歩くようになり、薄着もどちらかと言えばすすんでするようになった。
バストやヒップを強調するかのようにして歩く彼女を女生徒達はやっかみ半分で非難し、男子からは熱烈に歓迎した。


 そんな彼女が今、廊下を歩いている。
異性を惹きつける魅力的な歩き方で廊下を進む彼女をすれ違う男子生徒は振り向き、その後ろ姿をじっと見詰めていた。

 その時だった、彼女のスカートの裾が風も無いのにスルスルと持ち上がり始めた。
見詰めていた男子達からはどよめきが起こる。彼女自身はスカートの異変に気付かぬまま歩き続けていた。
スカートはどんどん上がっていき、むっちりとした太腿が見る間に露わになっていく。
男子の興奮はスカートの上がり共にエスカレートしていく。
そして遂に張り詰めた豊かなヒップを包む純白のパンティが顔を覗かせた。男子生徒の興奮は最高潮に達した。
しかし白いものが覗けた瞬間にスカートの裾はハラリと垂れてしまった。
男達からは途端に落胆の溜息が漏れる。
彼女自身は回りの騒ぎを自分の身体に向けられた熱い視線の所為だと判断していた。

 だがしかし失望した男子生徒達を狂喜させる出来事が起こった。
垂れ下がった彼女のスカートの中から、白い布地が滑り降りてきたのだ。
その布地が足首に絡まり彼女は前のめりに倒れた。男子達は最初は理解出来てなかったが、しばらくするとそれが何なのか理解した。
先程覗けたあの純白のパンティである。
男子生徒の間に喜びのどよめきが広がる。彼女は滑り落ちたパンティには気付かぬまま、転んだ事を恥じ入りながら立ち上がった。
途端にプツンと音がしたかと思うと、彼女のスカートが重力に引かれるままに落下してしまった。

 訳が判らず呆然とする少女。
一拍間が空いた後、周囲の男子生徒から驚愕と歓喜の叫びが沸き上がった。
彼女の下半身は今や何物にも包まれておらず、そのアンダーヘアまでもをすっかり曝け出してしまっていたのだ。
背部ではその豊かな臀部の深い割れ目までが男子生徒達の網膜に焼き付けられていた。


「きゃあああ」
乙女の悲鳴が廊下に響き渡った。
  藤寿々美は悲鳴を聞きつけすぐさま廊下に駆け出し、しゃがみこんでいる少女の元に駆けつけた。
少女は下半身に何も纏っておらず、その白く豊かな下肢が曝け出されている。
少女の周りには遠巻きに生徒達が取り囲んでいるが、誰もどう対処して良いものか判断がつきかね動き出せずにいるようだった。

 寿々美はすぐに教室からジャージをもってくると上着を彼女の下半身にかけてやり、ゆっくり立ち上がらせた後、ジャージの下を履くように言った。
周囲にいた友人達に頼み彼女を静かな場所へ移動させてもらい、自らは目撃情報の収集に努めた。

 目撃者の記憶は彼女の下半身露出の衝撃に上書きされてしまい甚だ不鮮明であったが、事件の概要はなんとか把握出来た。
寿々美は落下したスカートや下着の行方を探したが、何処にも見つからなかった。
目撃者の中にはそれらが音も立てずに飛んでいったと証言する者もあり、彼女が立ち上がった時に足から抜け、何者かの操作により消え失せたのは確実だった。

 寿々美は、被害者の少女に話を訊く為、彼女が移動した会議室に向かった。
胸の奥では黒い不安感が悪い予感と共に立ち昇ってきていた。


「全然気付かなかった?」
寿々美が尋ねると少女は、コクリと頷いた。
「気が付いたら足元にパンツが絡まってて……」
少女は恥ずかしそうにつぶやく。
「それで、立ち上がった時にスカートが落ちちゃったのね」
その瞬間を思い出したかのように寿々美の問いに頷きながら少女は顔を赤らめた。
「ちょっとゴメン、お尻を見せてもらっていい?」
寿々美はそう訊き少女の顔を覗き込む。つられたかのように少女は頷く。
 寿々美は少女の背後に回り、そっとジャージを捲った。
白くたっぷりとした臀部をくまなく探すと、丁度臀丘の中腹辺りに針で引っ掻いたような小さな傷があった。
「ここに引っ掻き傷があるんだけど、覚えはある?」
「ううん、そんなとこぶつけたりとかしてないし……」
少女は不審そうに記憶を辿ったがやはり答えは変わらなかった。
「おそらくこの傷は犯人によって付けられたものね。心配いらないわ犯人はすぐ捕まるから」
「……うん」
少女は不安気に俯く。寿々美は彼女を優しく抱きしめた。
「恥ずかしかったでしょう、今日はゆっくり休んで。大丈夫、みんなすぐ忘れちゃうし、犯人だって今日明日には逮捕されちゃうんだから、ね」
寿々美がそう言って微笑むと、漸く少女の顔にも僅かではあったが明るさが戻った。


 放課後、寿々美は教室に残り一人机に向かい考えていた。
 事件の後、寿々美の提案で殆どの女子生徒がスカートの下にジャージを穿いた。
中には格好が悪いと穿かない少女もいたが幸いにして事件の再発は無かった。
 寿々美の中では明確に犯人像が出来上がっていた。
あとは対処方法なのだが、その点に関し寿々美は慎重にならざるを得ないのだった。
(手口がスリキチ三平とそっくりなところからして、釣り部が関係しているのは間違いないわ)
そこまでは寿々美には確信があった。
だが今回の犯人がどこまで三平と接触があったのかが問題だった。
まぼろしパンティとの対決の詳細まで伝わっているのだとすれば問題がある。
(でも、スリキチ三平には誰かに伝える時間的余裕は無かったはず。その後も学園関係者との接触は出来ないようになっていたはずだし……)
寿々美は今日中に釣り部の部室に侵入し捜索するつもりでいた。
しかし相手が既に待ち構えている可能性すら考えられるこの状況では藤寿々美のままで潜入捜査をするのは危険すぎる。
こちらの手の内がばれている可能性もあると考え、出来る限りの対策を講じて釣り部に忍び込む必要がある、寿々美はそう決意した。


陽はすっかり暮れ、クライム学園が闇に包まれた午後8時過ぎ。部活動をしていた生徒も皆帰路に着いていた。
まぼろしパンティは釣り部の部室の前で慎重に辺りを窺っている。釣り部はスリキチ三平事件以来活動停止で部室も閉鎖されていた。
今や建物は寂れ人の気配も無い。
音を立てぬように気を付けながらまぼろしパンティは鍵の掛かっていないドアをあけ部室内に侵入した。
 潜入捜査の前に一通りの調べはつけてはいる。
パンティスリ事件当時釣り部に在籍しており、現在もクライム学園の生徒な者は非常に限られていた。
その中でまぼろしパンティが犯人の可能性があるとしてピックアップしたのは二人。
一人は通称ヘマちゃんと呼ばれる屁魔崎という男子生徒。
もう一人が濡豆木という男子で渾名はヌーさんといった。
屁魔崎は若い頃の西田敏行を三頭身にしたような印象のルックス、濡豆木は三國連太郎から鋭さやオーラを総て削ぎ落としこれまた三頭身にしたかのような見た目をしていた。
どちらも成績は芳しくなく留年は確実といわれている。
 まぼろしパンティはこの二人のうちのどちらか、もしくは両方ともが今回の事件の犯人である可能性があると睨んでいた。
手口の鮮やかさやスリキチ三平以上に手の込んだ手法からすると、犯人は二人組の可能性のほうが高いかもしれない、そうまぼろしパンティは考えていた。
 釣り部の部室内を持参した懐中電灯で照らしていく。
一年以上使用されてない筈だが、妙に生活臭がある。埃が溜まっている様子もなく、誰かが無断で出入りしていことは間違いない。
 室内を隈なく探索していくうちにまぼろしパンティは重大な手掛かりを発見した。
室内の入り口から入った正面の壁にクライム学園女子の制服のスカートが吊るされていたのだ。
それは最初から目の前にぶら下がっていたのだが、細かい所にばかり目を向けていた為、気付けなかったようだ。
その横には白色の女性用下着が同じ様に吊るされている。
よく目を凝らし、懐中電灯をあてて観察すると、スカートとパンティは共に細い釣り糸によって獲物を飾るかの如く吊るされているのだった。
それは今日の事件の被害者のモノに違いなく、動かぬ物的証拠だった。


(私がここに来る事を見越していた訳ね)
まぼろしパンティは自分の行動が犯人にとって予想の範囲内であったことを痛感し覚悟を決めた。
(じたばたしても仕方がないわ、おそらく犯人は外で待っている筈……)
相手に居場所を悟られぬよう懐中電灯の明かりは消し、まぼろしパンティは釣り部の部室から外に出た。
 身を屈め、辺りを窺うまぼろしパンティ。すると予想通り暗闇から声が響いてきた。
「だははは、ようこそ、まぼろしパンティ。部室の中のモノは見てもらえたかな」
「あんたが来る事くらい、すっかりお見通しだったんだよ。ふぉっふぉっふぉ」
自信に満ちた声が二人分まぼろしパンティに降り注いでくる。やはり犯人は二人いたのだ。しかし姿は確認できない。
「貴方達は、元釣り部の屁魔崎君と濡豆木君ね」
まぼろしパンティのその問いに、声の主は黙り込んだ。
「……ど、どうしてそれを」
その声は僅かに動揺しているようだった。
「少し調べさせてもらったの。元釣り部員で今回の事件を起こせそうな程の腕前をもっていたのは貴方達二人しかいなかった、そうでしょう」
などと少しおだててみるまぼろしパンティ。
「…んぐ、その通り。俺達こそ三平先輩の正当な後継者だ」
「それに元じゃないぞ、釣り部は永久に不滅だ」
あっさりと自白にも等しく正体を認めてしまう二人組だった。
「私がスリキチ三平を逮捕したから、その復讐の為に今回の事件を起こしたの?」
まぼろしパンティは事件の動機を確認しようと直接的に尋ねた。
「スリキチとか言ってるんじゃないよ。ああ、そうさ、貴様の所為で三平先輩は退学になり、釣り部は廃部させられた、その復讐だ」
「三平先輩と同じだけの技量を身につけるまでに今日までの時間がかかっちゃったんだ。まだ漸く二人合わせて先輩一人分だけどな」
「まぼろしパンティ、三平先輩の恨み今ここで晴らさせてもらうからな」
「今度はお前が廃業する番だ」
そう興奮して喚きたて二人組は闇から姿を現わした。
両手に釣り竿を抱えた顔の大きな男が二人。その目は血走っており、何とも言えない不気味な光景だった。


「それは逆恨みよ。女生徒の下着をスったから彼は捕まったんであり、その為に釣り部は廃部になったんでしょう。私を恨むのは筋が違うわ」
「うるさいうるさい、先輩は天才的な釣り技術をみんなに披露して下さっただけなんだい。下着だって借りただけで、後から返すつもりだったんだ」
「そんな言い分が通用するわけ無いでしょう」
呆れたようにまぼろしパンティは溜息をつく。
「黙れ淫乱売女、貴様さえいなければ我々も先輩も幸せだったんだ。罪を償ってもらうぞ」
「私に償うべき罪なんてないわよ。貴方達こそ、今日女子のスカート及び下着を盗んだ事は認めるわね、おとなしく自主しなさい。少しは罪も軽くなるでしょう」
まぼろしパンティは二人組を睨みつけ威勢良く宣告した。
「うるさーい、借りただけだって言ってるだろう。偉そうに、覚悟しろお前のパンティをスってやるからな」
「スリキチ三平も同じ様なことを言ってたわね。結局無理だったけど」
まぼろしパンティは余裕の表情で相手を挑発する。
「スれるものならスってごらんなさい」
その挑発を二人組は受けて立った。
「三平先輩に勝った気になって調子に乗ってるようだな、まぼろしパンティ」
「そっちがその気ならこっちも遠慮せずやらせてもらうぜ」
そして戦いの火蓋が切って落とされた。
 まぼろしパンティと二人組の間にはかなりの距離があった。しかしスリキチ三平と同じ技を使うのであれば充分相手の有効射程圏内と言える。
まぼろしパンティは障害物を探しながらゆっくりと動き回る。
しかし都合のいい障害物は見当たらない。もう少し距離を取れば暗がりでもあり相手から視認困難になるに違いない。
まずは離れて様子を窺おう、まぼろしパンティがそう判断し行動に移そうとしたまさにその瞬間だった。
「あっ」
まぼろしパンティが声を上げた時には、既に両腕の動きが取れなくなっていた。
丁度ロンググローブの端、肘にあたる部分が吊り上げられたかのようで、力を入れても全く動かないのだ。

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「大物、ヒット!」
「こっちもヒット!」
嬉しそうに叫ぶスリ馬鹿達。
まぼろしパンティは腕に力をいれ必死に抜け出そうとするが上半身を動かす事すら難しかった。
「何百キロもあるカジキを釣り上げるリールだぜ、まぼろしパンティの力くらいでじゃびくともしないっての、もほほほほ」
まぼろしパンティは腕を捻り、釣り糸をたぐろうとした、しかし糸に触れる事は出来ても外す事が出来ない。
針がガッチリとグローブに食い込んでいるのだった。
「そりゃあ」
更にスリ馬鹿の気合が入った叫びが響き渡ると、まぼろしパンティの右脚に違和感が走った。
「またまた大物ヒーット!」
そう叫ぶスリ馬鹿がリールを巻き上げるごとに、まぼろしパンティの右膝がグイグイと持ち上がっていく。
「あ、ああ」
まぼろしパンティの口からは情けない声が漏れる。
ロングブーツの膝下部分に針がかけられた様でこちらも全く動かせない。
どうやら、まぼろしパンティの頭上に鉄パイプのような物が渡されているらしい。
そこを支点にして糸を操っているようなのだ。
今、まぼろしパンティはY字バランスの形を強制的に取らされているようなものだった、
そしてその大きく広げられた下半身は黒いパンティに包まれているように見える
。そう、スリキチ三平の時と同じように。
その意味するところがまぼろしパンティ本人に痛いほどの羞恥となって突き刺さっていた。
「だっはっは、どうだまぼろしパンティ。身動き取れまい」
「こっからが本番だからな、いひひひひ」
馬鹿共は釣竿を専用の固定台に設置し、次の行動に移ろうと準備し始めた。
次に取り出したのはそれまでよりは細い竿と小型のリールだった。そして針先も入念にチェックする馬鹿二人。
「……ス、スれるものならスってごらんなさい」
かなり恥ずかしい格好で拘束されているにもかかわらず、まぼろしパンティは強気に挑発した。
 身動きが取れない為、その挑発行為が首を締める可能性は高かったが、弱気にでることは彼女のプライドが許さなかったのだ。
「ふふん、随分自信があるようだけどな、こっちは攻略法を考えてるんだぜ」
「えっ……」
絶句するまぼろしパンティ。馬鹿共はニヤニヤ薄笑いを浮かべながら何故か双眼鏡を設置しはじめるのだった。

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「俺達は三平先輩を崇拝している。先輩にスれないパンティなんてあるはずがない」
「しかし、お前のパンティだけはスれずに捕まってしまった」
「何故だ、あの三平先輩に限ってミスをするとも思えない」
「俺達が必死に考え抜き、ある結論に至った」
「そして今日、お前のパンティの色を見て確信したのだ」
まぼろしパンティに聞こえるように大きな声で叫びながら双眼鏡の設置を終えたスリ馬鹿達。
双眼鏡は三脚によって目の高さにくるようにセッティングされていた。
「覚悟しろ、まぼろしパンティ」
一際大きくそう叫ぶと、二人は釣竿を軽く振った。
「あぐぅっ」
股間に激烈な痛みが走り、まぼろしパンティの顔が苦痛に歪む。その表情を双眼鏡で確認しながらスリ馬鹿達は会心の笑みを浮かべた。
「先輩にスれないパンティは無い、しかしまぼろしパンティのはスれなかった」
「もしかしてそれは、スれなかったんじゃなくて、パンティがそもそも無かったんじゃないか」
「俺達はそう思い至った。ノーパンの上に耐水性の絵の具なんかでパンティを描いたとしたら、と」
「まんまと騙されてしまう可能性は高いかもしれない。そんなアホな事をする奴がいるなんて思いもしないからな」
「考えていくうちに、それしか可能性は無いと結論した。そして今、それは確信に変わった」
「まぼろしパンティ、破れたり!」
そう叫び二人はリールを軽く巻き上げた。
「ああぁ、痛いぃぃ」
まぼろしパンティの叫び声が響き渡った。スリ馬鹿達の推理はズバリと当たっていたのだ。
スリキチ三平と対決した時と同様、まぼろしパンティは裸の股間を黒く塗りパンティを穿いているようにカモフラージュしていたのだった。

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 その黒く塗っただけの剥き出しの股間に今、釣り針がかかり引き上げられていた。
ふっくらと膨らみ閉じ合わさっていた左右の大陰唇に針が掛かり、左右に強制的に広げられつつあった。
広げられた間から清純にして刺激的な薄桃色が覗けている。
 スリ馬鹿共はその光景を双眼鏡越しに確認し、狂喜の声を上げた。
「むひょおおぉぉぉ、オマ○コですよおぉ、オマ○コおぉぉ」
「ピ、ピピ、ピピ、ピーンクじゃないですかあぁ、うはああぁぁ」
「や、やっぱりだ、俺達は正しかったああぁ」
「やりましたよおぉ、三平先輩いぃ」
乱舞する男達とは対照的にまぼろしパンティは苦痛にのたうっていた。
「いいぃぃ、は、外してえ。あ、ああぁ」
「いひひ、大丈夫だよ。カエシの無い針だから痕は殆ど残らないんだ」
まぼろしパンティの苦しむ姿をさも楽しそうに眺めるスリ馬鹿達。
「いやあ、それにしても丸見えですなあヌーさん」
「パックリ開いてますぞ。自業自得というやつですな」
「天罰ですよ、天罰。だしししし」
すっかり股間を硬くしている屁魔崎と濡豆木であった。
「それにしてもヘマちゃん、あれはおケケを剃ってるんでしょうかなあ」
「確かに、毛が生えてないですな、ツルツルマ○コ、ツルマ○ですよ」
「パンティを穿いていないように見せようとして剃ったんですな」
「愚かしいですね。ひょっとしたら変態なのかもしれないっすよ」
「いや間違いなく変態でしょう。ド変態ですって」
「そもそもパンティなんて被ってる奴ですからね、間違いないっすね」
男達は嬉しそうにまぼろしパンティを品評していた。
「しかし三平先輩を罠に嵌めた女ですよ、まだ何か奥の手があるのかもしれません」
「油断は禁物ですな、ヘマちゃん。近付くのはもう少し控えましょう」
「では例のもので」
そう言って男達は目で合図を送り肯きあうと、また新たな道具を取り出すのだった。

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 男達が支度にかかっている間、まぼろしパンティの股間を開いていた糸は緊張が緩み秘所も平常の状態に戻っていた。
しかし受けた屈辱は消えることは無い。そして大陰唇には依然として釣り針が掛かったままなのだった。
まぼろしパンティはなんとか脱出しようと試み、両腕に力を入れてみるが焦るばかりでまるで効果が無い。
そうこうしているうちにスリ馬鹿共の用意が整い新たな屈辱儀式が始まってしまうのだった。
 屁魔崎と濡豆木が用意したのはまたしても釣竿でその先端には見慣れぬものがついている。
釣り針などではなく、プラスチック製の筒状の物体だった。スイッチのようなものを入れるとフィーンと軽い音がして先端が回り始めた。
二人はそれぞれ確認したあと、まぼろしパンティに向かってスローイングした。
 投げられた妖しい物体は、見事にまぼろしパンティの露な胸元にヒットした。それぞれが左右の乳房の先端に接触している。
「きゃあああぁ」
脱出を必死で試みていたまぼろしパンティは、突然の刺激に驚き慌てた。
その豊かな胸乳を震わすかのように、放られてきた物体は回転・振動によって様々な刺激をまぼろしパンティに与えるのだった。
妖しい物体の正体は模型用の水中モーターを改造したものだった。
スクリューの部分をゴム製の球体に付け替えた物で、球体の部分の回転刺激が敏感な所にあたりまぼろしパンティを悩ませるのは勿論、本体自身がモーターによって生じる振動によって絶妙な刺激を生み出しているのだった。
「ああぁん、いやあぁ、やめなさい」
まぼろしパンティは身動きのとれない身体を悶えさせて叫んだ。
しかし身体を揺らせばその分だけ刺激される範囲が広がってしまい、より一層悶えることになってしまっている。
「やめなさいとか言ってますよ、ヌーさん」
「変態のくせに偉そうに。実は喜んでるんじゃないですか」
「確かに喜んでるみたいですね。どれどれ」
などと言って双眼鏡の倍率を上げる屁魔崎であった。

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「おや、ち、乳首が尖ってきているようですよ」
「なに、どらどら。お、本当だピンピンになってるじゃないですか」
男達の指摘通り、まぼろしパンティの可愛らしいピンク色の乳頭は充血しすっかり立ち上がってしまっていた。
「やはり変態ですね」
男達はイヒヒと笑った。
「おーい、まぼろしパンティ、乳首が勃っちゃってるぞ」
「気持ち良くなっちゃってるのかー、正義の味方のくせに」
まぼろしパンティを苦しめようと、大きな声で叫ぶスリ馬鹿達。まぼろしパンティは慌てて否定する。
「ち、違う。気持ち良くなんてなってないわ」
「嘘つくな、そのオッパイが何よりの証拠」
「この淫乱痴女め、正体暴いて大公開だ、イッシッシ」
「どうやらあそこが弱いようですぞ」
「集中的にやりますか、ヘマちゃん」
二人はそう言うと双眼鏡を覗きながら、モーターを操り徹底的にまぼろしパンティの尖った乳頭を狙うのだった。
「あああぁぁん、いやああぁぁ、ダメええぇ」
まぼろしパンティは声を抑えきれない。
敏感すぎるほどに敏感な場所である、単純な刺激ではあったが、釣り糸に垂らされていることによる触れたり触れなかったりの微妙な接触と相まって、充分過ぎるほどに効果的にまぼろしパンティの官能を蕩けさせるのであった。
「ヌーさん、やっぱり喜んでるみたいですよ」
「嬉しそうな声だものな」
「もっと喜ばしてやりますか」
「博愛の精神だな、ダシャシャシャ」
そう言って更に乳房への責めをエスカレートさせるのだった。意図的にモーターを上下左右に細かく動かし広範囲に絶妙の刺激を与えていく。
「あああぁぁ、ひいいぃぃぃ」
まぼろしパンティの声はどんどん高まっていってしまい、無意識的に身体がくねってしまう。それがまた更なる刺激となり自らを苦しめていくのだった。
「おや、ヌーさん、まぼろしパンティの股間に異常が見られますよ」
双眼鏡を覗く屁魔崎が濡豆木を呼んだ。
確かに屁魔崎が言う通り、まぼろしパンティの下半身に変化が見られている。
黒くパンティ形に塗られた股間の中心付近、先程大きく広げられてしまっていた陰裂の辺りからキラキラと光の反射が見られているのだ。

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「なんだか濡れている様じゃないですか、ヘマちゃん」
「でしょう、女は気持ち良くなると恥ずかしい汁をマ○コから垂らすと言いますからね、まさしくそれに間違いないですよ」
「変態もここに極まれリですな」
「ホントに、ホントに」
「これはお仕置きがいるんじゃないですかね、ヘマちゃん」
「ですな、徹底的なやつが必要でしょう」
二人は示し合わせると、胸を責めているモーターの高さを固定した。そして再びまぼろしパンティの秘裂に掛かっている糸を巻き上げていく。
「あああぁぁ、きひいいぃぃ」
まぼろしパンティの口からは耐え切れず悲鳴が漏れる。
それまでは快楽のみを耐えていたところに、再び痛み刺激が加わったので意識も身体も混乱してしまったようであった。
 ゆっくり開いていく肉唇の奥には鮮やかな紅色が輝いている。
先程よりも赤味が増しているのは興奮の所為なのかもしれない。そして充分過ぎる量の愛液が溢れかえっていた。
「ほうら、ビチョビチョですよ、ヌーさん」
「すごいな、おしっこ漏らしたみたいじゃないですか。うひひ」
「ようし、ここから腕の見せ所ですよ」
屁魔崎はそう言い、新たな釣竿を取り出した。先端に針とは異なる金属製のクリップのような特別な部品が付いていた。
それを屁魔崎は慎重な動作でまぼろしパンティに向かって放った。
 金属製の部品は夜の空気を切り裂きながら、まぼろしパンティの秘部に降下していく。
屁魔崎は双眼鏡を覗きながら巧みに先端を狙いの場所まで誘導していく。
まぼろしパンティは自らの身体を這い降りていく妖しい物体に慄きながら、痛みや快感と闘っていた。
 淫らに開いた花弁の上端に辿り付くと、屁魔崎はより一層慎重になった。
「よし」と気合を入れるとリールに操作を加える。
先端の金具からは釣り糸以外にもう一本テグスが伸びていて、それを引くとクリップ状になっている先端が閉じるようになっているのだ。
竿を固定し、双眼鏡を覗き込みながら、屁魔崎はリールともう一本の糸を操った。
 狙いは勿論、まぼろしパンティの陰核だった。
風やまぼろしパンティの身体の動き等様々な条件で先端は狙いからズレてしまう。
しかしこのスリ馬鹿、屁魔崎は恐ろしいほどの忍耐力で獲物がポイントにくるのを待つのだった。
 そしてその時が来た。
「きたーっ」
屁魔崎は叫び、手元のテグスを軽く引いた。
「あああぁぁぁ」
まぼろしパンティからは今までになかったような、悲鳴が飛び出した。

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 充血し、大きくなりつつあった最も敏感な膨らみを挟み抓まれてしまったのだ。
その刺激の深さといったらそれまでのものとは全く比べ物にならなかった。
「やった、やりましたよ、ヌーさん」
興奮の面持ちで屁魔崎が濡豆木を見る。濡豆木も興奮しながら双眼鏡を覗いていた。
「凄い、やったなヘマちゃん」
「いやあぁぁ、は、はずしてえぇぇ、あああぁぁ」
まぼろしパンティが必死の表情で訴えかける。痛みと快楽が強くなり過ぎ、最早感覚が麻痺してきつつあった。
痛みすらも快楽に変わってしまう、そんな究極の状態が出来上がりつつあるようだった。
「ヘマちゃん、ク、クリトリスをゲットした訳だね」
「そうですね、間違いないでしょう。見て下さいよ、この反応」
屁魔崎はそう言って、テグスを軽く引いた。
「あひ、ひいいぃぃ」
まぼろしパンティは叫び、その美しい肢体が痙攣発作のように何度も跳ねた。
「うほほ、スゴイなこれは。間違いないね」
「でしょう」
「では、ワシも参戦してみようかな」
濡豆木はそう言い、自らも釣竿を出してくる。その竿の先には、例の水中モーターが付いていた。
モーターを始動させ、まぼろしパンティに向けて放つ濡豆木。
モーターは真っ直ぐにまぼろしパンテイィの最も敏感な一点へ到達した。
クリップで挟まれ、先程よりも膨らんだ陰豆に直接的な振動刺激が加わった。
「あああぁぁぁ、ひいいぃぃぃ」
まぼろしパンティの悲鳴が更に高まり、抑制を欠いたものになっていく。身体もコントロールを失ってるかのように跳ね回っていた。
「見て下さいよ、オマ○コからやらしい汁がどんどん湧いてきます」
「すごいな、垂れ流しじゃないか、ゲヘヘヘヘ」
二人のスリ馬鹿達自身も涎を垂らしながらこの淫靡な光景を双眼鏡越しにじっくり観察していた。
股間はもうはちきれんばかりに膨らんでいる。

17
まぼろしパンティの意識は既に朦朧としつつあった。
肉体を襲う全ての刺激が彼女を徹底的に苛んでいる。
恥ずかしい格好のまま標本のように固定され、自ら招いた事とはいえ股間を丸出しにされ観察されてしまっている。
しかも敵は肉体的接触を全くしてこないのだ。
遠くからまるで何かの実験のように器具を用いて責められるこの状況、それがより屈辱感と羞恥心を刺激し、身体の奥底からまぼろしパンティを蝕んでいた。
「や、やめてえぇ」
悲鳴がまぼろしパンティの口をついて出る。男達はまるで取り合わない。
「す、すごいですな、ヘマちゃん」
「え、ええ。エロいですね」
二人は双眼鏡の中の尋常でない光景に目を奪われっ放しだった。
自分達がこの光景を生み出しているのが信じられないといった面持ちで、今まで夢想し続けていた光景が眼前に広がっているのを恍惚の表情で眺めていた。
そして二人のスリ馬鹿の覗く双眼鏡の中で、その瞬間が訪れようとしていた。
 まぼろしパンティの文句のつけ様のない肉体がそれまで以上に、限界を超えているのではないかと思わせるほどに激しく波打った。
動く度に胸の前に吊り下げられているモーターが敏感な部分を刺激し余計に身体を跳ねさせてしまう、
そんな悪循環を断ち切れずまぼろしパンティはずるずると快楽地獄に引き擦り込まれてしまっていくのだ。

18
「ひいいいぃぃぃぃ」
甲高い悲鳴が、闇に吸い込まれていく。
両手を吊られ、右足も高々と持ち上げられて、見せてはいけない場所をおもいきり広げられた格好のまぼろしパンティの身体が、モーターの振動に合わせるかのように小刻みに震えた。
そしてその震えに合わせるように嬌声がまぼろしパンティの口から溢れ出るのだった。
「ひぃっ、ひっひっ、ひぃっ、いぃぃぃ」
一際大きく悲鳴を上げ、身体を跳ね上げさせてまぼろしパンティは限界に達した。
跳ね上がった芸術的な身体はピ−ンと反り返り、美しいシルエットを闇夜に描いた後、ゆっくりと崩れ落ちた。
 吊られているので影の上からでは判然としないが、手足は弛緩し首もガックリと折れており、テグスが無ければ地面に倒れ込んでいたのは確実だった。
まるで十字架に張りつけられになった救世主の像を思わせる神秘的な姿ではあったが、その左内腿は淫らな汁でぐっしょりと濡れており、その神々しさがより一層猥褻さを際立たせているのだった。
「お、おい、ぐったりしちゃったぞ、ヘマちゃん」
「あれですよ、エ、エクスタシーってやつです、きっと」
興奮で震えながらスリ馬鹿達が、まぼろしパンティを観察していた。持てる知識を総動員して目にしたものを理解しようと必死だった。
「エ、エクスタシーっていうと、気持ち良すぎてってやつだな」
「そうですそうです、気を失っちゃったりとかするって話ですよ」
「じゃあ、死んじゃった訳ではないんだな」
「おそらく……、そう思うんですけど」
不安げに確認しあう馬鹿二人、しかし不安な中にも欲望だけは衰えを知らず、見たい触りたい、そうした欲求が二人から不安を追い出していった。
「まあ、とにかく、抵抗は出来ないんじゃないですかね」
「近づいて確認してみるか」
「正体も暴いてやらないと」
「そうだった、そうだった、うひひひひ」
密談を交わし、二人はまぼろしパンティの手足を拘束している釣竿をしっかりと固定した後、陰唇に掛かっている糸が弛まぬ様ゆっくり巻き上げながら、まぼろしパンティに近づいていくのだった。

19
 まぼろしパンティの意識は朦朧としていた。
快感のあまり一瞬目の前が真っ白になり、全身から力が抜けてしまった。
その状態からは時間とともに回復してきていたが、脱力感は残り、上手く体を動かすことが出来ない。
 そんなまぼろしパンティの前に二人の馬鹿が立ちはだかった。
数本の釣竿と釣り道具が詰まっていると思われる用具入れを抱えた二人組は、まぼろしパンティのおよそ3メートル手前辺りで立ち止まり、値踏みするようにまぼろしパンティの様子を観察するのだった。
 まぼろしパンティには何か言葉を発する気力も失ってしまっていた。
このままではいけない、憎き犯罪者共に貞操を奪われてしまう、そう分かってはいたが体が言うことをきかず、それに引き摺られるように気持ちも萎え始めてしまっていたのだった。
どうすればこの危機から脱することが出来るか考えようとはするのだが、ぼんやりとした霧が頭の中にかかってしまったようで、はっきりとしたイメージを思い浮かべることが困難だった。

20
 そんなまぼろしパンティの様子をしっかりと確認しスリ馬鹿達は最後の行動に移ることにした。
「まずはマスクですね、ヌーさん」
「うん、その後、あの身体をたっぷり楽しませてもらおうじゃないか」
「うひひひひ」
「げへへへへ」
二人は来るべき輝かしき未来をしっかりと思い描きながら、釣竿を用意し始めた。
それまで使っていた物よりも短く軽い竿で、リールも小型軽量のものだった。
言葉にしていた通り、まぼろしパンティのマスクを狙う為だけならば確かに充分な装備である。
「任せたぞ、ヘマちゃん」
濡豆木はそう言って大役を屁魔崎に任せ、自分は世紀の瞬間を目に焼き付けようと、まぼろしパンティの顏を凝視するのだった。
任された屁魔崎は竿を軽く振り、手応えを確認すると弱っているまぼろしパンティを見てニヤリと笑い竿を振った。
竿先がしなり鋭い風切り音が生じる。
二人のスリ馬鹿がじっと見守る視線の先、まぼろしパンティのマスクの丁度中央部分に針が掛かった。
テグスは細すぎて馬鹿達本人にも見えていない。
針も小さいので僅かに吊り上がったマスクパンティの布地だけが獲物を捕らえた徴候ではあったが、スリ馬鹿達にはそれだけで充分だった。
「ヘマちゃん」
感極まった声で濡豆木が言った。
「最後の大物、ゲットしました」
屁魔崎の声も感動で揺れていた。積年の恨みと、落ちこぼれとしての鬱屈が開放される瞬間が今や遅しと彼等を待っている。
「覚悟しろ、まぼろしパンティ」
屁魔崎は高らかにそう叫ぶと、竿を立てリールを巻き上げた。
「ああぁっ」
ここにきて漸くまぼろしパンティも自分の身に何が起きようとしているのか把握できるまでに回復してきていた。
しかし時既に遅く、マスクが今奪われんとするその瞬間であった。
「ダメえぇぇぇ」
朦朧とする意識を振り払いながら、まぼろしパンティは絶叫した。
何とかマスクを奪われまいと必死で頭を動かしたが、勿論何の抵抗にもならず絶叫が果てるのと時を同じくしてマスクパンティが宙を舞った。

21
 マスクが奪われ、まぼろしパンティの長い黒髪がファサリと垂れる。
男達の歓喜の声と、まぼろしパンティの絶望の叫びが全く同時に響き渡った。
「いやったあああぁぁ」
「いやあああぁぁぁ」
しかしその情念の二重奏は戸惑いの声で中断されることとなる。
「あれ」
そう声を上げたのは濡豆木だった。まぼろしパンティの素顔が見られるはずの場面に起きている異変にやっと気付いたのである。
 まぼろしパンティはマスクを奪われ髪が下りていたが、素顔が全く分からない状態だった。
マスクを被っている状態と変わりがないと言っても良いだろう。
被っていたマスクの下から現れたのは、マスクと同じ形に黒くペイントされたメイク顏だった。
 そう寿々美は、この様な最悪の事態を想定していたのだ。
対応策として、下半身に施したのと同じ細工をマスクの下に施す事を思いつき実行していた。
顏に塗っているのは舞台メイク用のドーランで、多少の汗では落ちたりもしないものを丁寧に重ね塗りをして素肌を隠していた。
確かにその状態ではマスクをしているのと同じように見え、正体は分からなかった。
「なんじゃありゃあ」
「か、顏にも塗ってやがったんだ」
スリ馬鹿達は激昂した。何にという訳ではないが、期待を裏切られた、騙されたという思いが彼等を怒り昂ぶらせていた。
 対してまぼろしパンティは一気に冷静になっていた。
朦朧とした意識状態だった為、マスクを奪われることばかりに集中してしまい、その下に施していた細工のことを失念してしまっていたが、いざマスクを奪われ、敵に正体がばれなかったことが判ると、普段の冷静さが戻ってきた。
そしてこの拘束状態から抜け出す方法もあっさりと思い浮かんだ。
 力が入りすぎていたのだ。そのことに気付いた。というよりそれまで気付けなかったことのほうが恥ずかしくさえあった。
「くっそうこうなりゃ、絵の具を擦り落としてやる」
「顔も、アソコもだ」
男達は息巻いてまぼろしパンティに近付こうと足を踏み出した。

22
 まぼろしパンティは握り締めていた両手から力を抜き、手を開いた。
するとほんの少し下向きの力を加えただけで両腕はグローブからスッポリと抜けた。
後に残されたグローブは吊られたまま揺れている。
両腕が自由になるや否や、まぼろしパンティは自らの大切な部分に刺さっている針を抜いた。
細くカエシも無い釣り針だったので抜く時の痛みは殆どなかった。
最後に左足を一歩引くと、吊られているブーツから右足を抜いた。そしてまぼろしパンティは自由になった。
 目の前でいきなりまぼろしパンティが拘束を解いていくのをスリ馬鹿達は唖然として見守るばかりだった。
何が起こっているのかさっぱり判らないのが表情にありありと浮かんでいる。
歓喜の頂点から混乱の極みへと振り廻された結果、彼等は思考停止に陥ってしまっていた。
もともとこういた緊急事態に対処するような能力に欠けているのだ。
性欲と想像力を駆使し時間をかけて計画を練り上げる事は出来ても、咄嗟の判断をしなければいけない状況に対しては極めて弱いのだった。
哀れにも行動不能になっている男達の眼前でまぼろしパンティは自ら縛めを振り解き自由を獲得していた。
 自由の身となったまぼろしパンティは硬直しているスリ馬鹿二人を睨みつけ、彼等に向かって駆けだした。
僅か数歩でトップスピードに乗る。
距離は数メートルしかなかったので、あっという間に馬鹿共の目の前まで距離が詰まった。
 そしてまぼろしパンティの身体が宙を舞った。
身体を横に倒すような形で男達の頭を超える高さまで飛び上がると、そのまま二人の首元辺りに向けて勢い良く落下していく。
 まぼろしパンティの得意技にフライングボインアタックという技があるが、今繰り出したのはそんな良い技ではなかった。
フライングボインアタックは名が示す通り、受けた者に幸福感を与える技だが、今放たれた技は純粋な痛みだけしかもたらさなかった。
 まぼろしパンティの肘と膝が各々スリ馬鹿達の首筋にヒットした。
男達は揃って潰れた悲鳴を上げ仰向けに倒れ込む。
その隙を逃さずまぼろしパンティは男達の首を自らの腕と足を使って締め上げた。
スリ馬鹿達の脳に送られる血流は徐々に途絶え、二人は抵抗する間も無く意識を失った。
仲の良い事にほぼ同時に二人は昇天していた。

23
 起き上がったまぼろしパンティの顔には慈悲の感情などかけらも浮かんでおらず、ひたすら怒りだけが湧いていた。
その表情には凄みすら漂い、凛とした美しさがあった。
瞬く間にスリ馬鹿二人を身動き出来ぬように縛り上げると、ようやく一息ついた。
馬鹿共は一向に目を覚ます気配が無かった。いっそこのまま眼を覚まさなくても良い、そんなことまでまぼろしパンティは考えていた。
 そうこうするうちに、まぼろしパンティも冷静さを取り戻してきた。
落ち着いてみるとあまりの自分の格好に動揺してしまう。
なにしろ身に付けているのは左足のブーツと首元のマフラーだけなのである。
顔と下半身はパンティを穿いているように見せてはいるが、塗ってるだけなのだ。
もはやそこに立っているのはまぼろしパンティとは言えず、素顔と剃毛した局部を晒して立っている藤寿々美そのものだった。
 その事実に気が付いてしまい、まぼろしパンティ、いや藤寿々美は突然激しい羞恥心に襲われた。
心拍数が上がり顔が火照る、そして大事な部分が熱く疼いた。
(ああ、どうして……)
自らの肉体の反応に対処できず戸惑うばかりの寿々美であった。
そして、そのペイントされた無毛の聖裂から熱い陰液が溢れ始めていた
。寿々美は慌ててグローブやブーツ、マスクパンティを回収すると、顔を赤らめたまま退却した。

 こうして釣り部員による痴漢窃盗事件は解決した。しかし今後もまたスリキチ三平の遺志を継ごうとする愚か者が現れないとは限らない。
なにしろここはクライム学園なのだから。
 という訳で、まぼろしパンティに安らぎの時間はまだまだ訪れないのであった。

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