まぼろしパンティ77話・おぞ松くん編/ひみミちゃん♪ ・著 

                      初出:2006年1月4日
           〜11日
          『まぼろし掲示板』



場所はクライム学園生徒会室。今まさに新しい生徒会役員の顔合わせが行われようとしていた。
様々な難事件を次々と解決させる美少女探偵まぼろしパンティが現れてから早2年。
寿々美もクライム学園の3年生になっていた。新学期を迎え、寿々美は生徒会副会長に就任したのである。

しかし、最初は生徒会副会長などという役にはなるつもりもなかった寿々美。
やはり、まぼろしパンティとして活躍する時間も大幅に削減されてしまうし、わざわざ自分からそのような目立つ役をかってでるつもりもなかったのである。

しかし、生徒会役員の推薦選挙の際、あまりの多数の票が集まってしまったため、断ることができなかったのである。
なにせ、その票の多さといえば同じ学年はもちろんのこと、卒業を控えた先輩、学年が一つ下の後輩達からも多くの指示を集めてしまい、
おそらくクライム学園の歴史の中でもこれほどの票を集めた者はいないであろうと思えるほどのものであったのだから。

これは、まぼろしパンティではなく、普段から仕置き教師やクライム学園の中にも存在してしまっているドロップアウトした者達にも毅然とした態度で接するという藤寿々美本来の姿に多く尊敬する者がいたためである。
正しく、表も裏もどちらの姿も生徒達の憧れの対象であったのである。

こうして、今ここに生徒会長「柳生勉」副会長「藤寿々美」のスーパーコンビが結成されたのであった。


新しい生徒会役員が発表されてから1ヶ月が経過した今、正に期待通りの活躍を見せる2人の成果が確実に現れ始めていた。
仕置き教師の悪行に正面から立ち向かい、体罰の対象になってしまった生徒を助けたのは数えきれないくらい。
そして、
ドロップアウトしてしまった者達へは、優しさを込めて接することで本来生徒としてあるべき姿に戻った者も少なくなかったのである。
この活躍には、多くの生徒達の信頼を集め、正に順風な日々がこのままずっと送られると誰もが思っていた。

しかし、これを邪悪な目で見つめる者達がいたのである。
クライム学園を代表する落ちこぼれの「彦馬力蔵ことヒヤリ」と「出田太一ことデカ太」の二人であった。
特にヒヤリは今年留年しており、3年生を2度経験するため、寿々美達よりも年齢が1つ上であったのだ。
元々、噂通りの活躍を見せる花々しい二人に嫉妬していたのもあったのだが、二人のために仲間達が次々と自分達から離れてしまっていったため、
軽い嫉妬から憎悪に変わるまでにたいして時間はかからなかったのである。

「シェエェー!2度目の3年生でヤンス!許せんでヤンス!」
「てやんでい!バロー!ちくしょう!オイラも今年は危ないやい!おでん(゚д゚)ウマー」

いつものように、放課後の人気のない教室で大袈裟なリアクションをとりながら、くだらない話をしている二人。


「キェエェー!だいたいあの生徒会長と副会長が許せんでヤンス!
我々達から仲間を奪っていったあげく、未だ正義ぶっていろんなところに顔を突っ込んでくるヤンス!
特に副会長は許せんでヤンス!あんなにエッチなナイスバディをしたうえに、勉強もできてスポーツもできて、おまけに副会長なんて!
絶対許せんでヤンス!人生は公平でないでヤンス!シェェエー!!!」
「てやんでい!バロー!ちくしょう!オイラもそう思うわい!
さっさとあの二人をやっつけてやるわいな!特に副会長を虐めてやるわい!ちくわぶ(゚д゚)ウマー」

3つ具がついた竹串を頬張りながら、デカ太がその言葉を吐くと、すかさず反応したヒヤリ。

「うん?シェエェー!そうするでヤンス!あの二人を、特に副会長をやっつけるでヤンス!
あの正義ぶった顔をめちゃくちゃにしたあげく、ナイスバディを堪能するでヤンス!」

副会長をどうというより、ただ寿々美の体を好きにしてみたいだけの二人。悪い話ほどすぐにまとまる。
デカ太もすぐに賛同して、話はまとまったかのように見えたのだが・・・

「てやんでい!バロー!ちくしょう!でも、どうするんでかな?
仮に副会長を連れ去ってもまぼろしパンティが黙っていないはずだわいな。はんぺん(゚д゚)ウマー」

誰もが考える最もな疑問をヒヤリにぶつけるデカ太。しかし、なぜか余裕顔のヒヤリ。

「シェエェー!まぼろしパンティ!大丈夫でヤンス!私に考えがあるでヤンス!
というか、この際まぼろしパンティの正体も暴いてやって我々達のペットにしてやるでヤンス!シェェエー!!!」

いつものポーズを決めながら笑いとばすヒヤリ。しかし、その瞳には決してハッタリではない、自信が伺えたのである。


翌日の放課後、授業が終わり生徒会室へ向かう寿々美を廊下で待ち構えるヒヤリとデカ太。
二人は昨日、深夜遅くまで寿々美拉致作戦を練っていた。しかし、やはり気になるのはまぼろしパンティの存在である。
それだけがどうにも気になって仕方のないデカ太に対し、ヒヤリは決定的な一言を言ってのけたのである。

「シェエェー!まぼろしパンティ=藤寿々美でヤンス!間違いないでヤンス!これまでもいろんな者がまぼろしパンティに立ち向かっていったが、殆どの者は藤寿々美と言っているでヤンス!しかし、最後にはやられてしまっているだけでヤンス!今日こそ、それをはっきりと証明してやるでヤンス!」

なんと、寿々美をまぼろしパンティと完全に決めてかかるヒヤリ。
これに対しデカ太は一抹の不安を抱えながらも藤寿々美=まぼろしパンティ拉致作戦に加わったのであった。


二人が待ち構えること10分。自分の教室から生徒会室に向かおうと、颯爽と現れる寿々美。
その姿は女子高生とは思えぬほど、独特で巨大なオーラを放っていて、落ちこぼれの二人にとっては眩しいほどであった。
このあまりの寿々美の輝かしい姿に一瞬気後れしてしまったデカ太に対し、ヒヤリは何事もないかの如く、作戦通りに寿々美に話し掛けていった。

「シェエェー!生徒会副会長の藤寿々美さんでヤンスね!」

いきなり何の前触れもなく、寿々美の前にいつものポーズを決めながら現れたヒヤリに驚いてしまったが、気後れすることなく返事をする寿々美。

「あ・・・あなたは・・・彦馬力蔵さんですね」

寿々美自身もこのヒヤリは知っていたのだ。ドロップアウトした者達の頭的存在で、昨年は留年したため今年2度目の3年生を過ごしていることなど。
確かに、自分の努めはこういった者達を普通の生徒に戻すことである。
しかし・・・やはり、本人を目の前にしてしまうと何を話していいのかわからなくなってしまう。
また、なぜ?向こうから自分の前に現れたのか?自分では平静を装おうとしていても、自然に笑顔が崩れてしまっていた。

「なんでヤンス?なんでヤンス?どうしてそんな顔をするでヤンスか?全校生徒のアイドル的存在の副会長さんが、そんな顔をしてはダメでヤンスよ!
それとも、私達なんかとは話をするのもイヤなのでヤンスか!?シェェエー!」

ヒヤリは、笑いながら話すものの、目が笑っていない。まさしく、落ちこぼれならではの皮肉たっぷりのセリフである。
しかし、これにはまったくの図星をつかれて、慌ててしまう寿々美。

「え・・・そ・・・そんなこと・・・ないですよ。彦馬さん、こんにちは。えっと・・・何かお話ですか?」

そんなことではいけないと気付き、無理に笑顔を作って話を進める寿々美。
その笑顔は作ったものとわかっていても、実に美しく愛らしい。誰もが引き込まれてしまいそうな、そんな宝石のような輝かしさがあった。


「シェエェー!さすがは、副会長さんでヤンス!その笑顔がたまらないでヤンスよ!」

ヒヤリは素直に褒めているのだが、内心気持ち悪くて仕方のない寿々美は、なるべく早く話を終わらせようと自分から話かけていく。

「あの・・・すみませんが、私、これから生徒会の仕事がありますので、早く行かなくてはならないの。だから、話がないようでしたらこれで・・・」

そう言いながらヒヤリの横をすり抜けようとする寿々美の前に立ちはだかったのはデカ太である。
なんと、デカ太はその名の通り、身長が2メートルはあろうかと思うほどの巨人である。
女性としてはわりと高めの身長の寿々美でさえも、隠れてしまうほどの巨大さに圧倒されてしまう。

「てやんでい!バロー!ちくしょう!まだ話の続きがあるだわいな」

一瞬、敵意を感じて身構えてしまった寿々美であったが、ここで本気を出すわけにはいかない。
まぼろしパンティでない今は、ヘタな態度は取れないのである。しかし、その殺気を一瞬で感じ取ったヒヤリ。
ニヤリと笑みを浮かべたかと思うと、突然、甘えるような声で寿々美に話かけた。

「シェ〜・・・実は・・・私も今年で4年生でヤンス・・・デカ太にしても来年は危うい様子でヤンス・・・
そんな落ちこぼれの我々にの相談に乗って欲しいでヤンス・・・これは言うなれば人生相談でヤンス・・・」

「えっ!?でも・・・そんなことは先生に聞いた方がいいですよ。私なんかでは・・・」

「シェエェー!ダメでヤンス!ムリでヤンス!先生なんかにこんなこと話ても何の解決もしないでヤンス!
だって、先生達は我々のことなど、眼中に入っていないでヤンス!そしてそして!いつもいつも仕置きの対象として弄ばれるだけの存在でしかないでヤンスよ!
副生徒会長さんなら、こんな哀れな者達でも、相談に乗ってくれると聞いてきたでヤンス!だから、お願いしたでヤンス!
それとも・・・やっぱり副会長さんも先生方と同じでヤンスか?我々など無視でヤンスかね・・・やっぱり・・・」

こう、涙目で訴えるヒヤリとデカ太のこの断りを無下にするのは、寿々美の正義感が許さないところである。
しかし・・・相手はクライム学園でNo1・2の悪人で知られる二人・・・少ない時間の中で寿々美の出した答えは・・・


「うーん・・・ふう・・・わかりました。いいですよ、私でよければ。
ただし、生徒会が終わってからでいいですか?今からだと2時間くらいはかかると思いますけど・・・それでもよければ・・・」

「シェエェー!やっぱり話がわかるでヤンス!さすがでヤンス!偉いでヤンス!
それでは、あちらの理科実験室で待っているでヤンス!先生には許可を取っておくでヤンス!
生徒会が終わったらすぐに来てほしいでヤンス!我々はずっと待ってるでヤンスからね!シェエェー!」
「てやんでい!バロー!ちくしょう!よろしくお願いしますわいな!」

二人の心の底から嬉しそうな表情に少しホッとして、笑顔でその場を離れる寿々美。

(ふぅ・・・やっぱりちょっと考えすぎたかな・・・二人も本当に嬉しそうだったし、これで二人が真面目になってくれれば私も嬉しいわ。
それに・・・なんか先生みたいで・・・やっぱり頼られるって嬉しいな。キャっ!)

そんなことを考えていると、自然に笑顔になってしまう。その笑顔を通りすがりに見ていく生徒達もつい笑顔になってしまう。
そんな優しさが溢れる寿々美に対し、別の意味で笑顔を浮かべる二人・・・

「てやんでい!うまくいったわいな!」
「キェエェー!まずは、第一作戦成功でヤンス!これから第二作戦に移るでヤンス!楽しみでヤンス!シェエエエェエー!!!」

最高のポーズを決めて、喜びの声をあげるヒヤリとデカ太であった。


「それでは、以上を持ちまして本日の生徒会を終了させていただきます」

クライム学園新生徒会長「柳生勉」が終了の挨拶を済ませると、緊張の場が和やかに崩れていく。
生徒会室に集まっている10数人の役員生徒達は新しくこの場で知り合った仲間達と談笑しながら帰りの準備を急いでいた。

次々と生徒会室から生徒が出ていく中で、最後に残ったのは勉と寿々美であった。
最後の一人が生徒会室から出ていった途端に不思議な緊張感で辺りが包み込まれていく。
お互い意識していないといえば嘘になる。
寿々美としては、まぼろしパンティとして活躍する中で数多く勉と接しており、自分の裸をまじまじと見られ慣れている相手である。

勉としては、まぼろしパンティもそうだが、素の寿々美に好意を持っており、どうにも緊張してしまっている。
しかし、いつまでもこんな気持ちをくすぶらせておくわけにはいかない。
そう思った勉は今がチャンスとばかりに震える声で寿々美に話しかけていった。

「あっあの・・・藤さん・・・も・・・もし良かったら・・・一緒に帰らないかい?
そろそろ辺りも暗くなるし、最近は変な事件も多いからっ・・・どっ・・・どうかな?」

顔中を赤らめてたどたどしく誘いをかける勉。
彼としては真面目を絵に描いたような男で、今まで女性を誘うことなど考えもしなかった。
そんな勉をこんな気持ちにさせたのは、寿々美が初めてのことだったのだ。
下をうつむきながら、ドキドキした気持ちで寿々美の返事を待つ勉。
しかし、返ってきた答えに愕然としてしまうのである。

「あ・・・柳生くんごめんなさい・・・今日は、これから予定があって、ちょっと寄らなくちゃいけないところがあるの。
明日は一緒に帰れると思うからそれでいい?ごめんね。それじゃあ私行くね!バイバイ!」

まるで逃げるようにその場を後にする寿々美。もちろん、彼を嫌っての行為ではないのだが、勉には充分ダメージが残る言葉であった。

「あ・・・終わった・・・」

愕然とその場に崩れ落ちる勉を横目に見ながら「くすっ」と笑い、生徒会室を離れていく寿々美。
目指すはヒヤリとデカ太のいる理科実践室であった。


寿々美がヒヤリとデカ太の待つ理科実験室に着いた時には辺りがうす暗くなっていた。
しかし、実験室には明りが着いており、ひとまずホッとさせてくれる。改心したように見せているが、やはり相手が相手である。
一抹の不安を抱えながらも実験室の扉を開いていく。

ガラっと実験室の扉を開くと同時に、先制攻撃を食らった寿々美。

「シェエェー!副会長さんが本当にいらしてくれたでヤンス!嬉しいでヤンス!お待ちしてたでヤンス!さあこちらへ。シェエェー!」
「てやんでい!バロー!ちくしょう!嬉しいですやんなー!」

突然、目の前に現れたヒヤリとデカ太に反応して、思わず飛び退いてしまった寿々美であったが、その反応の速さと動きは正しく「只者ではなかった」。
慌ててその場を取り繕うとする寿々美。

「あ・・・お待たせしました。今、生徒会が終わったので・・・それで・・・お話ですが・・・」

至って普通の女子生徒を装うとする寿々美であったが、その一連の流れがますますヒヤリに自信をもたせるのであった。

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多少心配されたヒヤリ・デカ太二人との話だったが、とても意外な内容に寿々美は驚いていた。
演技ではない、真剣な二人の相談に心の底から感心するばかりであった。

「これからの自分達の努めるべきこと」
「将来への不安」
「年齢が一つ下になる同級生達との触れ合い」

など、真剣に涙ながらに話しかけてくる二人の言葉に寿々美もまた心の底から応援したくなり、時間を忘れて出来る限りのアドバイスをするのであった。

寿々美が話す一語一語にうなずき、感心する二人に対し、すっかり気を許してしまう寿々美。
気がつくと1時間が経過しており、辺りは完全に暗くなってしまっていた。

「シェエェー!わかったでヤンス!ありがとうでヤンス!
やっぱり副会長さんでヤンス!我々の心をここまで理解してくれたのは副会長さんが初めてでヤンスよ!シェエェー!!!」
「てやんでぃ!バロー!ちくしょう!オイラもすっかり心が入れ替わったわいな!」

喜ぶ二人を笑顔で見つめながら涙ぐむ寿々美。
(やっぱりきちんと話をしてあげればわかってくれるんだわ。こうやって向き合うことが大事なのね。
ちょっとでも二人を疑ってしまった自分が情けないわ。ごめんなさい)

寿々美としても、ドロップアウトした二人がここまで素直に心を開いてくれて、喜ぶ姿を見ているとやはり嬉しくなってしまう。
少しでも彼等を疑ってしまったことに対し、心の中で詫びながら笑顔で二人を見つめるのであった。

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「シェエェー!それでは、今日はもう遅くなってしまったから、ここら辺でお開きにするでヤンス!
そうそう、御礼と言ってはなんでヤンスけど、とびっきり美味しいコーヒーを準備しているのでこれを飲んでから帰っていただくといいでヤンス!
辺りは寒くなってるでヤンスから、ちょうどいいでヤンス!デカ太!準備して、副会長さんに差し上げるでヤンス!」
「てやんでい!すぐに準備するわいな!」

この時、普段の寿々美ならば、すぐに気がついていたであろう。悪者二人が予め準備したコーヒーになんらかの罠が潜んでいることくらい。
しかし、今、こんなに真剣に話を聞いてくれた二人に対し、少なからず気を許してしまっていた。
これが後に自分を貶めることになるのだが、この時はまだ気がつかないでいたのである。

「さあさあ、暖かいうちに飲むでヤンスよ!我々なんかの話を聞いてくださった御礼でヤンスからね!ぐいっと一気に飲んで欲しいでヤンス!」
「てやんでい!きっと美味しいから満足するわいな!」

やはり一度は遠慮してみせたものの、目の前に二人が準備したコーヒーを差し出されると飲まないわけにはいかない。
また、相手が御礼と言っているのに飲まないのは失礼にあたるということをよく理解していた。

「すみません。それでは、遠慮なくいただきますね」
「シェエェー!遠慮なんかいらないでヤンス!ぐいっといくでヤンス!」
「てやんでい!一気にいくわいな!」

・・・

「はぁ〜、とても美味しいコーヒーですね、ありがとうございます」
彼等の準備したコーヒーはとても美味しかった。気がつくと全てを飲み干してしまった寿々美だったが、その時には二人の顔がはっきりとは見えなくなってしまっていた。

「あ・・・あれ・・・どうしたのかしら・・・なんか・・・頭がボーっとしてきちゃったみたい・・・私、これで失礼しますね・・・」

「あれれ?どうしちゃったでヤンスか?副会長さん?」
「てやんでぃ!顔色が変だわいな!」

「そ・・・そんなこと・・・ないですよ・・・私、帰らなくちゃ・・・あ・・・」

ふらつく足で実験室の扉を開いたところで完全に意識が途絶えてしまった。寿々美が最後に見た彼等の表情は、今までの表情とはうって変わった邪悪なものに見えた。

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「うん?・・・ここは?・・・私・・・どうして?・・・」

ガタガタと体が揺れる振動で目覚めることができた寿々美。
慌てて首を振って状況を確かめてみるが、辺り全てが闇に包まれていて目の前すらわからない。
しかし、どうやらこの揺れは車のようである。明らかにどこかを走っていることがわかる。

「何?・・・私・・・あいつらにコーヒーを勧められて・・・それで・・・えっ!?何これ?」

考え事をする時のいつものポーズを取ろうと片手をおでこに当てようとしたのだが、なぜか手が動かない。というか、後ろから手が回らないのである。

「私!縛られてる!?」

起きた時に気がつきそうなものだが、コーヒーに含まれた睡眠薬の効果が残っていて、まだ頭がボヤけてしまっている。
そのため、確認するのに時間がかかってしまったのであろう。慌てて後ろ手に縛られた縄をほどこうと体を動かしてみる。

「えいっ!」

おもったより頑丈ではないようだ。
これならいける!そう確信した寿々美は四苦八苦しながらも、全力で体を動かしていると、なんと、あっさりとほどけたではないか。
これには、寿々美自身が一番驚いていた。

「あっ!ほどけたわ!でも・・・間抜けな犯人ね。しっかりと拘束しておかないとダメでしょ。まったくお馬鹿さんね、うふふ。
さあ、今の状況と私をどこに連れていこうとしてるのか・・・全て調べてから、たっぷりと後悔してもらおうかしら」

体さえ動けばまぼろしパンティに変身して犯人を捕まえることができる。まだ体は充分ではないが、それでも寿々美には今までの経験から自信があるのだ。

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「やっぱり、犯人は彼等かしら?だとしたらこの車を動かしているのはヒヤリの方ね。
そして、この車は荷車付きの大型トラック?そして、私がいるのは荷車の方ね。
こちらからは運転席は見えないけど、向こうからは見えるのかしら?
それなら、今自由に動ける私を見ることができる。そして、きっと車を止めて私を捕まえにくるはず。
そうしないということは、運転席からも見えないはず・・・本当にヘマな犯人達ね、くすっ」

その予想はズバリ的中していた。寿々美が乗せられているのが大型トラックの荷車の方で、運転席にはヒヤリとデカ太が乗っているのだ。
そして、運転席からも荷車からもお互いを見ることができないのだ。
寿々美が自由になっていることに気付かず嬉しそうに運転を続ける二人。

「シェエェー!やったでヤンス!やったでヤンス!あの美人副会長を捕まえたでヤンス!
これから我々の小屋に連れて行ってたっぷりとお仕置きしてやるでヤンス!
あんなことやこんなこともたっぷりとしてやるでヤンス!シェエェー!!!」

「てやんでぇい!バーロー!ちくしょう!たまらんわいな!たまらんわいな!オイラもたっぷりとあの体を楽しむわいな!」

まるでスケベオヤジのように鼻の下を伸ばし、これからのことを嬉しそうに話しながら車を走らせる二人。その時だった。

【ガタンっ!!!】

後ろの荷車の扉が開く音、そして何かが落ちる音が二人の耳に飛び込んできた。

「シェエェー!なんでヤンスか!?後ろの扉が開いたでヤンスよ!」
「てやんでぇい!ちょっと車を止めるわいな!副会長が逃げ出したわいな!」

【キキッーーー!!!】

車のサイドミラーから後方を確認すると、寿々美が走り去っていくのが見えた。慌てて車を止めて飛び出す二人。

「シェエェー!なんでヤンスか!どっちに逃げたでヤンスか!」
「てやんでぇい!こっちだわいな!こっちに逃げたわいな!」

場所は、クライム学園から少し離れた林の中。
車が異常に揺れていたのも、舗装されていない道悪のためであろう。すでに時間は19時を回っており、この季節では真っ暗である。
二人は寿々美が逃げたと思われる方角に向かって進んでいるが、なにせ辺りは木々が広がる場所である。
更にこの薄暗さ。人を探すどころか歩みを進めることすらままならない。

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「てやんでぇい!バーロー!ちくしょう!
だいたいヒヤリが縄をしっかりと結んでおかないからだわいな!
扉も簡単に開くようになってたんだわいな!出発する時は、表から鍵を掛けたと言っていたわいな!
どうなってるのか教えて欲しいわいな!」

普段はヒヤリに頭が上がらないデカ太もさすがに怒り心頭のようである
。せっかく捕まえた美人副会長をあっさりと逃がしてしまったヒヤリの手際の悪さに文句の一つも言いたくなったのであろう。

確かにデカ太の気持ちもわかるであろうに、なぜかヒヤリは薄笑いを浮かべてこの状況を楽しんでいるように見えた。

「キェエェー!デカ太!大丈夫でヤンスよ!くふふふ。ここまでは予定通りでヤンスからね。
彼女はすでに罠に嵌っているでヤンス!ここからが本番でヤンスよ!シェエェー!!!」

怒るデカ太に対し、自信たっぷりに答えるヒヤリ。そして、お得意のポーズをデカ太に見せつけて笑いあげていた時・・・

「そこの二人!!!」

暗闇の林の中に美声が響き渡ったのである。

「てやんでぇい!バーロー!ちくしょう!」
「シェエェー!誰でヤンスか!」

その美声に反応し、悪人特有のセリフを並べるヒヤリとデカ太。慌てて声がした方に目を向けるが人影は見えない。

「どこにいるでヤンス!何者でヤンス!」
「てやんでぇい!姿を現すわいな!」

互いに背を合わせて、辺りを警戒する二人。

「どこを見ているの?ふふふ・・・ここよ!」

【ガサガサッ!!!】

突然、二人の横にある木々が動いたかと思うと、なんともセクシーな姿をした女性が飛び出してきたのである。
そう、その者こそ数々の難事件を解決させる正義の使者、美少女探偵まぼろしパンティであった。

「シェエェー!!!まぼろしパンティ!!!シェエェーーー!!!」
「てってってってやんでい!!!まぼろしパンティ!!!本物だわいな!!!」

15
突然のまぼろしパンティの登場に、脅えているのか喜んでいるのかわからない二人。
顔にパンティマスク、体にもパンティ1枚だけを身に付け、後は全裸である。
なぜか、いつもの真紅のロンググローブとブーツは装着しておらず、白のハイソックスと革靴姿であるが、
本物であることはその輝かしい瞳が証明している。

「クライム学園きっての落ちこぼれ生徒ヒヤリとデカ太!心の底からお前達を応援してくれた女生徒に対して、
お門違いな行為をしたお前達を見逃すわけにはいかない!
この美少女探偵まぼろしパンティが女生徒に成り代わり、お前達を成敗します!」

まぼろしパンティの姿に慌てふためく二人に対し、ビシッと指を突きつけて、ヒロインセリフを吐くまぼろしパンティ。
その瞳は怒りに満ちていて今にも飛び掛ってきそうである。

「シェエェー!言いがかりでヤンス!おかしいでヤンス!我々はそんなことはしていないでヤンス!
第一、なんでそんなことをまぼろしパンティが知っているでヤンスか!まるで一部始終をどこかで見ていたようでヤンスよ!
だとしたら、今頃出てくるのはおかしいでヤンス!もっと早く現れて助けるべきでヤンス!
つじつまが合わないでヤンスよ!まるで本人みたいでヤンス!どうでヤンスか!
それに答えきれない限り、我々を成敗なんかできないはずでヤンスよ!それこそお門違いでヤンス!シェエェエー!!!」

怒りに満ちているまぼろしパンティに対し、突如落ち着きを取り戻して、最もなセリフを吐くヒヤリ。
まるでまぼろしパンティが現れることをわかっていたかのような態度である。

これには、戦闘態勢に入っていた構えを解くしかなかった。

「そっそれは・・・そう!私が今、パトロールしていたら、突然そのコが走ってきたのよ!
そして、事情を聞いたらお前達に捕らえられてしまってって。そう聞いたのよ!
だから、お前達を成敗にきたの!これで文句はないわね!いくわよ!」

機転を利かし、そう答えるまぼろしパンティこと寿々美。
しかし、その答えも予め予想していたと言わんばかりにあっさりと切り返すヒヤリ。

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「シェエェー!またまたおかしいでヤンス!
まぼろしパンティの言うそのコと会ったというのは何時何分でヤンスか!
仮に我々の車に乗っていて逃げ出したのならそんな説明を聞いている暇などないはずでヤンス!
だって、我々の車を止めたのはほんの1分前でヤンスよ!
それとも・・・走っている車からそのコが飛び降りたとでも言うんでヤンスか
!普通の人間にはそんなことができないでヤンスよ!
もっとも・・・そのコがまぼろしパンティならば、できないこともないでヤンスがね!シェエェー!!!」

「ぐっ・・・」

これには、思わず言葉を飲み込んでしまうまぼろしパンティ。
確かにつじつまが合わないのだ。
明らかに動揺しているまぼろしパンティを嬉しそうに眺めながら更に言葉で追い詰めるヒヤリ。

「第一・・・その格好はなんでヤンスか!まぼろしパンティといえば、真紅のロングブーツとロンググローブ。
そして・・・際どいハイレグパンティが象徴のはずでヤンス!
そんな白ソックスと革靴、それに地味なおこちゃまパンティなんて穿かないでヤンス!
そう・・・まるで、うちの女生徒がマスクパンティだけ被って慌てて出てきたみたいでヤンス!
どうしてそんな格好をしているでヤンスか!シェエェー!!!」

これまた図星であった。そもそもまぼろしパンティに変身するための衣装をいつも持ち歩いているわけがないのだ。
常時携帯しているのはポケットに収まるマスクパンティのみ。
このような非常事態においては、マスクパンティだけを被り、上下の制服を脱ぐことで対応してきたのだが、
殆どの敵はまぼろしパンティの姿を見ただけで、脅えるか喜ぶかするだけで、そこまで疑問を抱かなかったのである。
そう、まぼろしパンティが登場してくることを予想していなければ、出てこない疑問とセリフであった。

「ほらほら!どうしたでヤンスか!ぐうの音も出ないみたいでヤンスね!
本当は、美少女探偵まぼろしパンティなんて名ばかりで自分のうっぷんを晴らしたいために、難癖つけて人を襲っているだけではないでヤンスか!
それとも・・・そのいやらしい体を男に見せつけるために、現れるんでヤンスか!ぐへへええ・・・さあ!どうでヤンスか!」

ますます自信たっぷりなヒヤリに動揺を隠し切れないまぼろしパンティ。

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(くっ・・・いけないわ・・・こんなヤツの言葉に惑わされてはダメ・・・一気にやっつけるのよ!
でも・・・確かに証拠がないわ・・・今ここでこいつらをやっつけても、私の方が悪くなっちゃう・・・
それに、ヘタをすれば私の正体がばれてしまうかもしれない・・・どうすれば・・・)

「シェエェー!そろそろはっきりするでヤンス!まぼろしパンティは一体何のために現れたでヤンスか!
恥女行為がしたいだけの変態露出狂だって認めるでヤンスか!それならそれで我々がたっぷりと可愛がってあげるでヤンスよ!
ぐへへえ・・・まずは、そのパンティマスクを剥いでお顔を拝見してあげるでヤンス!
それからゆっくりと我々の別荘で楽しませていただくでヤンスよ!シェエェー!!!」

難癖をつけながらじわじわと距離を縮めてくるヒヤリとデカ太に動揺して、一歩ずつ身を引いていくまぼろしパンティ。
間違えのない敵であるはずなのに、すっかり言いくるめられてしまい手が出せないのである。

「シェエェー!脅える顔も可愛いでヤンスね!ぐへへええ・・・さあ、そのマスクを剥いでやるでヤンス!素顔を見せるでヤンス!」
「てやんでい!バーロー!ちくしょう!まぼろしパンティのマスクをいただくわいな!」

すっかり手が出せなくなったまぼろしパンティに対し、まずはそのマスクパンティを奪おうと猛烈に飛び掛ってくるヒヤリとデカ太。

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「さあ!さっさとそのマスクパンティをよこすでヤンスよ!」
「てやんでぃ!バロー!ちくしょう!その素顔を晒して活躍できないようにしてやるわいな!」

自分達の屁理屈にぐうの音が出なくなったまぼろしパンティに対し、ますます増長するヒヤリとデカ太は、まずマスクパンティを奪いに猛烈に飛び掛っていった。

「えっ!?ちょっ、ちょっと!」

尋常ではない二人の勢いに慌てるまぼろしパンティこと寿々美。気がついた時には理屈がどうというよりも条件反射的に後ろに跳ね飛んでいた。

飛び掛ってくる二人から身を交わし、2メートルほどの距離を保つまぼろしパンティ。
そのあまりに見事な身のこなしに追いつくことができなかったヒヤリとデカ太は勢いあまって冷たくて固い地面にそのままの勢いで叩きつけられてしまった。

「シェエェー!痛いでヤンス!なんで交わすんでヤンスか!シェエェー!」
「てやんでぃ!バーロー!ちくしょう!まぼろしパンティが逃げるのはおかしいだわいな!」

体に土をつけながら、悔しがるヒヤリとデカ太。

「シェエェー!なんと酷い仕打ちでヤンスか!
至って健全な一般男子生徒の我々に対し、ありもしない理由をつけて犯人扱いをしたうえに、まだ抵抗するとは!
全くどっちが悪人かわからないでヤンスよ!シェエェー!」
「てやんでぃ!このことは学園の生徒会にもちかけて事件にしてもらうわいな!この傷ついた体が証拠だわないな!」

またもや屁理屈をつける二人だったが、なぜか慌てるまぼろしパンティ。
頭の中にかすかに残る睡眠薬の効果がまだ持続しているのか、それは自分にもわからない。
ただ、あの時、実験室で見せたヒヤリとデカ太の真剣な眼差しを忘れられないことと、確実な証拠がないこと。
いや、寿々美本人であるまぼろしパンティなら間違いはない。しかし、それを認めることは自分から正体を白状しているのとなんら変わりがない。
そういった様々な要素に悩まされ、抵抗する術を徐々に剥ぎ取られていってしまったのだ。

19
「あ・・・ごめんなさい・・・大丈夫?・・・」

本来、女生徒誘拐犯人である二人に対し、こんな愛の手を差し伸べる必要など全くないのだが、こんな些細な事にも今の寿々美の判断力は鈍っていた。

「シェエェー!もう遅いでヤンス!どうしてくれるでヤンスか!この傷ついた体!これは、まぼろしパンティに体で詫びていただくしかないでヤンスね!」
「てやんでぃ!そうだわいな!本当に悪いと思ってるなら体で証明するだわいな!それができないなら生徒会に持ちかけるだけだわいな!」

まるでだだっ子のようにすねる二人に困惑するまぼろしパンティ。
どうしていいものかわからないまま固まってしまっていたのだが、その隙を見逃さずヒヤリがマスクパンティに手をかけてきた。

「シェエェー!第一、こんなマスクパンティで顔を隠しているのが失礼でヤンス!
本当に悪いと思っているなら、まず正体を見せるでヤンスよ!
自分でできないならミーが取ってあげるでヤンスよ!ぐへへへ、シェェー!」

ヒヤリがマスクパンティにかけた手に力を入れようと意気込んだ時だった。

「・・・ちょっと!これ、絶対おかしいわよ!」

バシッ!!!

「シェエェー!痛いでヤンス!なんでヤンスか!」

突如、弾かれたようにその場を離れるまぼろしパンティ。
自分のマスクパンティに伸びたヒヤリの手を払いのけながら自信たっぷりの表情で睨み返してくる。

「これは、絶対におかしいわ!
いいこと?あなたたちが言う理屈はわかるわ。証拠がないのに自分達を傷つけるのはおかしいってことはね。
でも、それなら言わせてもらうけど、だからと言ってあなたたちが私に手をかけるのもおかしいわ。
だって、私もあなたたちにまだ何もしていないもの。その傷だって、自分達で転んだだけのこと。
どう?無知なお二人さん?うふふ。」

自信たっぷりに微笑むまぼろしパンティ。これまた最もである。今度はヒヤリとデカ太が押し黙ってしまった。

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「シェエェー・・・そ・・・それは・・・でヤンスね・・・」
「てってってってやんでぇい・・・それは・・・だわいな・・・」

まぼろしパンティの理屈にぐうの音が出なくなったヒヤリとデカ太。
二人の困惑の表情を見ていると、徐々に自信が戻ってきた寿々美は、完全に本来の姿に戻っていた。

「さあ、いいわね!だから、お互いに相手を傷つけたりすることができないというわけよ!
でも・・・私は、彼女を信じるわ!あなたの言う、時間の問題はあるかもしれないけど、それはあなたたちを捕まえた後に答えてみせるわ!
あなた達も自分が潔白と思うなら、潔く学園警察まで一緒に来ることね!そこでお互いキッチリとケリをつけましょう。それでいいわね!」

「くっ・・・ここまででヤンスね・・・デカ太!やっちまうでヤンス!」
「てやんでぃ!バロー!ちくしょう!もうこうなったら力づくでまぼろしパンティをやっつけてやるだわいな!」

まぼろしパンティの見事な理屈に完全に屈服してしまった二人は、突如居直り、自信満々に微笑むセクシー探偵に飛び掛っていった。

しかし、こうなると完全にまぼろしパンティのペースだ。
自信を取り戻した寿々美は、力で勝る男二人を完全に翻弄していた。
左右から襲い掛かる二人の間を蝶のようにひらひらと舞い、徐々に体力を削っていく。
更に、隙をついて二人の腹や腰、首元や足元などを攻撃することも忘れない。

完全に実力が違っていた。ものの5分もしないうちに、ヒヤリとデカ太は地面に突っ伏してしまっていた。

「シェエェ・・・もうダメでヤンス・・・うう・・・悔しいでヤンス!
参ったでヤンス・・・我々の負けでヤンス・・・好きにするがいいでヤンスよ・・・」
「て・・・てやんでい!ヒヤリ!何を言ってるだわいな・・・まだ負けてないだわいな・・・」

デカ太はまだ抵抗しようと大きな体を揺すっているが、ヒヤリは完全に参ったようだ。まぼろしパンティに両手を向けて、降参のポーズを示している。

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「ふう・・・もう降参?・・・だったらいいわ。これから一緒に警察にいきましょう。
でも、心配しないで。あなたたちが彼女に何をしようとしていたのかはわからないけど、犯罪は達成されていないわ。
彼女は無事に逃げていったし、素直に非を認めて警察に謝れば、そんなに大きな罰を受けることもない。だから、これで良かったのよ。ネっ!」

さっきまでの勇敢な戦士の顔から一変して、慈愛に満ちた表情でヒヤリに手を差し伸べるまぼろしパンティ。
その姿にまだ抵抗しようとしていたデカ太までもが涙を浮かべ、観念したかのように見えた。

(ふう・・・良かった・・・これで事件解決ね・・・でも・・・この体全体から流れる汗は一体何?・・・
いつもはこの程度で汗をかくことなんてないのに・・・しかも、体が重い・・・そして、熱い・・・
とにかく、早くパパに二人を渡して、早く家に帰らなくっちゃ)

そう、事件は解決したかのように見えるのだが、自分の体の異変を明らかに感じ始めた寿々美。
この季節にこの大量の汗、そして体の芯から沸きおこる熱いもの、それが何かはわからないが、今までに経験したことのないものだった。
そんな体の異変にぐっと堪えながら、ヒヤリを抱き起こした瞬間だった。

【ヒュッ!!!】

突然、ヒヤリが片手をまぼろしパンティの美乳、しかも乳首をかすめるようにさっと払ったのである。

所謂、痴漢テクニックとでもいうのだろうか?明らかではない、偶然手の平が胸に当たってしまったかのようなもの。
この時点で痴漢だと決めつけて女性が男性の手を掴んでもなんとでも言い返すことのできるもの。
その程度のものだったのだが、なぜか異常に反応してしまうまぼろしパンティ。

「ひゃひっ!あんっ!あはぁ・・・」

しかも、その声がまた異常だった。
男の手が女性の敏感な場所、乳首に当たる。確かにこれは女性にとって驚くべきことであろう。
だが、ほんのちょっと指先が当たっただけのものだ。驚くにしてもここまでの声は出ない。
更に、まぼろしパンティの声は、通常の驚きの声ではなく、妙に甲高く、そして性感を刺激されたような、甘ったるいものだった。

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これにはヒヤリとデカ太だけでなく、寿々美自身が一番驚いていた。
(えっ!?私、何て声を出してるの!?はしたないっ!でも・・・何か、体が熱く・・・あはぁ・・・)

突然のまぼろしパンティの変化。
たった一度乳首に手が当たっただけで、異常な反応を示す、まるで色欲魔の如き姿に、おもわずニヤけてしまう二人。

「あれれ?まぼろしパンティ?どうしたでヤンスか?なんか色っぽい顔をしてるでヤンスよ!おかしいでヤンスねぇ〜ぐへへええ・・・」

【サッ!!!】

今度はヒヤリの手がまぼろしパンティのおへそ辺りに伸びてくる。
しかし、これもまたほんのわずか「かすめる」程度である。
触ったかどうかすら怪しいほんの些細なタッチである。しかし、これにも異常な反応を示すまぼろしパンティ。

「あひゃんっ!ひいっ!」

たったこれだけのことでビクビクと体を震わし、目がうつろになってしまっている。

「てやんでぃ!バロー!ちくしょう!一体どうなってるんだわいな!」

【ツンッ!!!】

まるで想像もしなかった、まぼろしパンティの恥態に面白がって今度はデカ太が腰の辺りを指先で押してくる。

「あひいいっ!ダメっ!ダメっ!そんなとこ押したらダメっ!あふうっ!」

これまた異常反応を示すまぼろしパンティ。
すでに腰は完全に砕けてしまい、ペタンと座りこんでしまっている。しかも、輝かしかった瞳はとろみがかり、うつろになってしまっている。
先ほど激しく動いた5分間よりも、大量の汗を流し、はあはあと荒い息が止まらない。

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「シェエェー!!!なんでヤンスか!そのいやらしい顔は!さっさと我々を警察に連れていくでヤンスよ!美少女探偵さん!どうしたでヤンスか!」
「てやんでぃ!それとも、もっとお触りしてほしいのかいな!」

【ツンツンッ!!!】
【サッ!!!サッ!!!】

すっかり元気になった二人は調子に乗って、立つこともままならないまぼろしパンティを両手でつついたり、かすかに触れてみたりとやりたい放題になってきた。
しかし、いずれもほんの些細なタッチだ。これも、相手をどうにかしようとするためのものではない。
しかし、そんなわずかなお触りにさえ、異常反応するまぼろしパンティ。

「あひいんっ!!!らめっ!!!やめてっ!!!押したり触ったりしないでっ!!!
あんっ!!!もうらめっ!!!やめれっ!!!熱いっ!!!体が熱いのっ!!!ドロドロになっちゃうっ!!!あひゃひぃっ!!!」

すでに、正義のヒロインという輝かしい光は放っていなかった。
瞳からはうっすらと涙を流し、口の端からもツーっと1本の筋が垂れてしまっている。
そして、大量の汗は顔中にも現れ始め、マスクパンティのあちこちに染みを作っていく。
これだけで、頬の辺りや鼻筋、額などは、うっすらと透けて見えてしまっている。
このまま刺激を続けられてしまうと、所詮薄い布でしかないマスクパンティなど、あっさりとその役目を放棄してしまうであろう。
マスクを脱がさずに正体を知る事ができる。これは、妙なエロチズムがあったのだ。

「シェエェー!いい顔になってきたでヤンスね!」
「てやんでぃ!とんだスケベ女だわいな!ちょっと軽く触れるだけで、いやらしすぎるだわいな!ぐへへへえ」

「そんな・・・見ないでっ!これは違うのっ!何かの間違いなのよっ!
あっ・・・あふんっ!あひゃひいぃっ!体が勝手にっ!!!らめっ!!!」

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「シェエェー!すごい反応でヤンスね!とてもいやらしいでヤンスよ、まぼろしパンティちゃん!
ムフフフ・・・そう・・・まるで強力な媚薬でも飲まされてしまったかのうようでヤンスよ!ゲフフフ・・・」

「えっ!?・・・」

そう、まさしくその通りだった。いくらなんでもこれはおかしいことに気がついていたのだが、原因を考える余力がなかったのだ。
確かに普通ではない。こんなに体が敏感になってしまったことは、男性経験どころか自慰さえもろくにしたことがない寿々美にはなかったことだった。

「てやんでぇい!バロー!ちくしょう!そうだったのかいな!まぼろしパンティちゃんは媚薬を飲んでるんでわいな。
でも、一体いつ飲んだのかいな?わざわざパトロールに行くのに媚薬を飲むなんて・・・まさしく変態の露出狂だと思うしかないわいな!」

デカ太にまで指摘されて、息もおぼつかないまま反論するまぼろしパンティ。

「そっそんな!そんなもの飲んでパトロールするわけないでしょ!私にもわからないわよっ!
どうして・・・こんな・・・あんっ!まだ体がうずくの・・・あひいっ!触ったらダメっ!」

イヤイヤをするように頭を左右に激しく振りながら、反論するまぼろしパンティ。
今まで果敢に立ち振る舞っていた正義のヒロインが性欲に負けて泣き崩れてしまっている姿に否が応でも欲情を駆り立てられてしまうが、
ぐっと息を飲み込み、ダメ押しと言わんばかりに決定的な一言を言ってのけるヒヤリ。

「シェエェー!媚薬をいつ飲んだのか?それはまあいいとするでヤンス!
でも・・・おかしいでヤンスね!我々が彼女に飲ませたコーヒーの中には睡眠薬と一緒に強力な媚薬も混ぜていたでヤンスよ!
これは偶然にしてはできすぎでヤンス!
まぼろしパンティはいつ飲んだのかわからない。かつ、その女生徒には媚薬入りコーヒーを飲ませた・・・」

ヒヤリの言葉に心臓をぎゅっと握られてしまったかのような衝撃を受けるまぼろしパンティ。
これには思わず困惑してしまっていた。しかし、この隙を逃さずたたみかけるヒヤリ。

25
「えぇーい!そろそろ観念するんでヤンス!美少女探偵まぼろしパンティ!
いやさ、クライム学園生徒会副会長藤寿々美!
お前がまぼろしパンティということは最初からわかっていたでヤンスよ!シェエェー!!!」

まさしく、決定的であった。これほどの明確な証拠が他にあるだろうか。
先ほど飲んだと言えばそれまでだが、パトロールする前にわざわざ媚薬を飲む理由などない。
いや、あるとすれば、こんな破廉恥な姿で外を出歩いて興奮する恥女くらいだろうか。そんなことを認めるわけにはいかないのだ。

「ああ・・・そんな・・・これは罠・・・」

寿々美も観念したかのようにヒヤリの言葉を肯定してしまう他なかった。

「そうでヤンス!お前は、我々のことをみくびっていたでヤンス!
せっかく睡眠薬を飲ませて拘束したのに、あっさりと縄がほどけたことに油断したでヤンス!
どうせ、バカなヤツの考えること・・・とか思ったでヤンス!
そして、ミーが空けておいた後ろの扉も簡単に開く不自然さに気がつかなかったでヤンス!
更に!一度脱出しておいて、そこら辺で服を脱いでまぼろしパンティに変身した・・・
その格好は、わざとではなく、今現在まぼろしパンティの衣装を持っていなかったからでヤンス!
どうでヤンスか!ミーの考えた作戦は!見事でヤンス!シェエエェー!!!」

「ああ・・・」

とどめのヒヤリの言葉に愕然とうなだれてしまうまぼろしパンティ。

「てやんでぃ!バロー!ちくしょう!ヒヤリは天才だわいな!
そうならそうと最初から教えてくれれば良かったわいな!オイラまで騙されてしまってたわいなー!」

驚いたのは寿々美だけではなかった。相棒のデカ太までこの用意周到な仕掛けは知らなかったのだ。

「シェエェー!あんたに教えたらすぐにバレてしまうでヤンス!だから黙っていたでヤンス!
まあ、許すでヤンスよ。そのお陰でこの通り、まぼろしパンティを捕らえることができたでヤンスからね、グフフフ・・・」

「てやんでぇい!そりゃそうだわいな!
どうやら副会長さんが、まぼろしパンティであることは間違いないようだわいな!まあ、これからじっくりと暴いてやるわいな!」

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こうなってしまうと完全にヒヤリとデカ太のペースだった。
決定的な証拠を突きつけられ、媚薬を飲まされて悶える腰砕け状態の寿々美には抵抗する術は完全に絶たれてしまっていた。
ただ、脅えるように愛らしいお尻を冷たい地面につけたまま後ずさることしかできなかった。

「ああ・・・いやぁ・・・私は、まぼろしパンティよ・・・そんな人なんかではないの・・・こないで・・・」

「シェエェー!まだそんなことを言うでヤンスか!どこまでもおじょうぎわの悪い恥女ヤンスね!これからそのいやらしい体にたっぷりときいてあげるヤンスよ!」
「てやんでぇい!オイラも手伝うわいな!上下のパンティをセットにして奪い取ってやるだわいな!」

「ああ・・・いやぁあー!」

三度寿々美に襲い掛かるヒヤリとデカ太。しかし、今度という今度は交わすことができなかった。
強烈媚薬のために体が動かないこともあるが、なにせ正体がほぼバレてしまっているのだ。
これほどの強烈な攻撃は今までの敵からは受けたことがなかった。
あまりに出来すぎた用意周到な罠。寿々美の心を打ち砕くには完璧なツメだったのだ。

「シェエェー!まずは、副会長さんのパンティをじっくりと拝んでやるでヤンス!
ほれほれ、こんな格好はしたことがないでヤンスでしょ?グフフフフ・・・凄い格好でヤンスよ!シェエエェー!!!」

「ああ、いやぁあー!こんな格好恥ずかしいぃー!許してぇー!」

なんと、地面から立つことができないまぼろしパンティをいいことに、両方から足を掴み頭の方にもっていったのだ。
自然に体が後ろに反り返ってしまい、恥ずかしすぎるポーズを取らされてしまう。
そう、所謂「まんぐり返し」というヤツだ。
二人のギラついた視線が寿々美のパンティ越しの秘部を極限まで顔を近づけて覗き込んでくる。
いくらパンティで隠していても奥の奥まで透かされてしまっているような錯覚に頭がくらくらとしてしまう寿々美。

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